アイデンティティのゲシュタルト




ハロー 世界には誰もいない



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私はこの物語の一体どういう位置にいる存在なんだ?

霧雨魔理沙の上手い仲裁(という名の略奪行為)で、聖輦船は無事、何も考えず墜落し、絶賛復興作業中だ。

何も考えず。

ああ。

何も考えたくない。

居心地の良い場所の居心地が悪い。

鼓動が無いのに早くなる。

息はしないけど荒々しい。

幽霊に効く毒は心に効く毒。

元来的に情緒不安定。

で。

私はその時何に怖がっていたのか酷く震えていた。

星に肩を叩かれた時、「やあ」と返事することが出来なくて。

思い切り体が跳ねて、反射的に飛び退いた。

星は困惑していて、謝ろうとしていた。

聴きたくなかったから耳を塞いで目を逸らして頭を振った。

星は傷付いているようだった。

ああ、そんな顔をしないで。

近くに居たくなかったから、逃げた。

後ろから声をかけたら、急に暴れだして錯乱されて逃げられたら、私だったらどう思うのだろう。

居心地の悪い場所は居心地が悪い。


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いつも一人でここにくる。

路地裏のような。

聖輦船のはじっこ。

そこで倒れ伏して、苦しんでのた打ち回っている。

脊椎を引っこ抜いて欲しいぐらいに、体中がむずむずする。

吐き気がした。

臓物ごと吐き出したかった。

胃液しかでなかった。

咳き込んだ。

誰かに背中をさすられた。

此処ニ来ルノハ誰ダロウ。

「大丈夫」

疑問じゃなくて断定だった。

誰かに頭を撫でられた。

傘が見えた。

誰かに抱きしめられた。

その体は随分と小さくて、



安心した。


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「此処の船長の様子おかしくなかったか?話し掛けなかったんだけどさ」

「あ、あぁ・・・・」

「なんでお前まで落ち込んでるんだよ。友達が元気なかったら自分は普通で居てやらないとどんどん重くなるぜ」

「・・・・水蜜は私が嫌いになったんだよ」

「なんで?」

「話しかけようと思ったら怖がられて、逃げられた」

「へぇ」

「へぇ、って」

「嫌いになった理由じゃないよな?それ。嫌われたっぽい行動なだけじゃん」

「そりゃあ、まあ」

「いつから?」

「ここ最近。お前が聖輦船を収めた後ぐらいだよ」

「収めたって言っても、力ずくで真っ黒に犯されてた船のコアぶち壊しただけだけどな」

「私達じゃ踏み切れなかった決断だよ。だからその報酬として私がここにいる」

「そりゃそだ。んでさ、あのコアって、なんていうの?黒かったんだよな。あそこから黒い変なヤツが出てきて襲ってきたりするし」

「あぁ」

「狂気を誘発する感じ。あれに犯されたら例えばおかしくなったりするんじゃねーかなーとか」

「それに水蜜が、という話か?」

「うん、まぁ。一応前例?とまで具体的な共通点があるわけじゃないけど、あるんだよ。こじつけくさいけどさ、あの、あれだよ、永遠亭って知ってるか?」

「知識としては、一応」

「あそこの住人が狂気に塗りつぶされて、大騒ぎになったってのが最近な。妹紅が沈静させたらしいけど」

「どうやって?」

「狂気を発生させる玉みたいのがあったんだと。それをガシャーンと破壊したら徐々に直っていったってさ」

「シンプルだが、水蜜が一体どのどれに犯されて居るのかわからないじゃないか」

「タイプが違うから、玉だとも限らんだろ?妹紅は何故か永琳の体内にあったその玉を体ぶち抜いて引っこ抜いたって話だったけど」

「む、無茶だ!水蜜はそんな丈夫にはできていない」

「そりゃ不死と比べちゃなぁ、船長ももう死んでるけど、深刻なダメージにつながりそうなのはダメだろ」

「じゃ、じゃあ・・・・」

「さっきも言ったけど、今回は玉じゃないと思うんだよ。黒い煙みたいな?そーゆーのを吸い込んだんじゃないかと思ってる。んで、永遠亭と症状が一緒なら自分の体と頭が壊れていくのもお構い無しに片っ端から破壊活動をする。でも船長は聞く限りじゃ暴れてるわけじゃない。壊れていってるだけ。症状が薄いんだよ、私が破壊したコアの破片―残りカスを吸ったようなもんなんじゃないかって事」

「・・・・?」

「毒だろ、毒。病気だと思うんだよ。そーゆーさ。まぁ永遠亭は今壊滅中だし?そこに頼るのは無茶だから・・・・私が知ってる奴だと、メメ子かヤマメかなぁ?あそこらへんに頼めばどうにかしてくれるんじゃないかなーと」

「て、適当だな・・・・が、しかしそれ以外に方法もない・・・・」

「おっと、お前はここにいろよ。【そういう約束】だ。私が行って来てやるよ。おーい、にとり!」

「んおー?どったの魔理沙」

「ちょっと野暮用ができた。こいつの面倒頼むわ」

「ういうい。まかせなよ」

「あと宝塔はどんな感じだ?」

「面白いよ。ただ私達じゃ使えない力って可能性が高いから研究の無駄かもしれない」

「そーか。それは残念だが、そうだろうなと思って星ごと借りてきたんだ、後者の目的に賭けるさ。んじゃ、頼んだぜー」

「いってらっしゃーい」


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「・・・・にとり、さん?」

「にとりでいいっすよー。そっちの方が目上くさいし」

「あ、ああ。にとり、ちょっと質問があるんだ」

「なにかな、とらまるちゃん」

「これは、やはり異変なんだろうか・・・・」

「異変だろうねぇ、それもかなりの規模の。よくわかんないけどねー」

「魔理沙は一体どのような目的で動いてるのだろう」

「堅苦ッしい喋り方だね。元々向いてないのに無理矢理そういう風に喋ってるね?まあいいけど。魔理沙は自身の魔法の研究と人助けにしか興味がないよ。私はそれに付き合ってるだけさ」

「付き合ってるという事は、ある程度この異変についての推理もしている?」

「してるよ。聞きたかったら話してもいいけど」

「頼む」

「んー。鈴仙・優曇華院・イナバが一番怪しんじゃないの?と思ってるよ、私は。安直だけどそういう被害だし、今行方不明だし。ただ、鈴仙一人では流石に無理だろう。主犯が鈴仙なら、単独犯ではない可能性が高い。今幻想郷での被害を教えようか?星蓮船はその全てを何者かに人質に取られて、紅魔館が離散して、地霊殿が支配されて、永遠亭が狂って、白玉楼と妖怪の山が消し飛んだ。完全に解決したとは言わないまでも、まぁ解決に向かっているといえるのは聖輦船・地霊殿・永遠亭あたりかな?聖輦船は水蜜不安定、地霊殿はこいしが行方不明、永遠亭は鈴仙が行方不明。紅魔館は行方不明になっていたレミリアスカーレットは戻ってきて、意識不明だった十六夜咲夜は回復に向かってる。パチュリー・ノーレッジの使い魔が意識不明、フランドールは聖輦船までぶっ飛ばされたんだっけ?紅美鈴は行方不明。白玉楼や山については最近過ぎて情報が足りない。八雲は何をやってるのかよく分かってない。霊夢は何やらあちこち動き回ってるみたいだね、具体的にはわからない。こんなところかな?細かい所はかなーりはしょってるけど」

「・・・・私に何かできる事はないのだろうか・・・・」

「しーらない。そんなの自分で考えなよ。でも、ここを動くのはダメだよ。【そういう約束】らしいから。集まってる財宝の中から研究の役に立ちそうな物を探すって魂胆らしいからね、魔理沙のやつは。君は財宝に触っちゃダメだよ!直ぐ無くしちゃうんだから。まぁ当面はここの家事でも頼むよ」